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顔面神経麻痺と鍼灸治療

 顔面神経の障害に顔面神経麻痺がある。顔面神経麻痺は末梢性と中枢性に分けられ、症状も治療方針も異なる。

 

 鍼灸治療の対象になるのは末梢性である。さらに末梢性は片側性と両側性に分類される。

 

 末梢性で症状が片側にあらわれるものにはベル麻痺、ラムゼーハント症候群、耳下腺腫瘍、小脳橋角部腫瘍、外傷、炎症などがある。

 

 顔面神経麻痺でもっとも多いのは特発性または急性におきる末梢性で片側性のベル麻痺であり、顔面神経麻痺患者のうち約5〜8割におよぶという報告もある。単純ヘルペスが発症原因のひとつと考えられている。

 

 ベル麻痺では「額のシワを寄せることができない」「閉眼が困難」「涙が流れる」「鼻唇溝が浅くなる」「頬をふくらませることが出来ない」「口笛が吹けない」「口角が下垂し唾液が流れ出たり水を口に含むと口角から垂れてくる」といった状態がみられる。

 

 また、顔面神経は味覚や涙の分泌、唾液の分泌、聴覚にもかかわっているため、味覚障害や聴覚障害があらわれることもある。

 

 ちなみに、ベル麻痺と同じく末梢神経性で片側性には水痘帯状ヘルペスウイルスが顔面神経に感染して発症するラムゼーハント症候群がある。

 

 ベル麻痺は発症後まもなく、麻痺の進行が停止してから服用薬やマッサージなどで適切な処置をすれば1〜3ヶ月ぐらいで回復する事が多い。ラムゼーハント症候群はベル麻痺と比較すると治療に時間を要することがあり、不全麻痺を残すこともある。

 

 顔面神経麻痺(特にベル麻痺)に鍼灸治療は向いていると言われている。その根拠は血行促進や表情筋の弛緩と運動が治療方針になるためだ。

 

 東洋医学における顔面神経麻痺の原因には熱、寒、湿、血、肝、腎の問題などさまざまだ。ただ、鍼をする顔面部と頭部のツボは地倉、頬車、陽白、合谷、風池、下関、翳風など概ね共通している。

 

 かつては、低周波鍼通電による治療が当然のように行われていたが、現在はやや認識が変わってきていて、必ずしも良いとはされていない。

 

 その理由として考えられていることに、顔面神経は束にならず分枝して神経節(翼口蓋神経節、膝神経節、顎下神経節など)を介して各々神経核や組織に到達する特徴があって、低周波鍼通電は”迷入再生”というものを起こすきっかけになりうるという調査報告があることから、現代医療ではそれを尊重する傾向にあるのだという。

 

 とはいえ、発症のリスクが高まるというレベルにとどまっているという見方もあり、施術者と患者との間で相互理解が出来ていれば、当事者双方の自己責任にまかされている風潮もある。

 

 顔面神経麻痺は早期から高頻度の治療が効果的とされている観点からも、鍼灸治療やマッサージ治療が適しているであろうことがうかがえる。

 

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