以前にも少し触れたことですが「痛くない鍼」を宣伝文句に使う鍼灸院があります。本当なのでしょうか?
そもそも痛みの感覚とは自覚的なものであり、他人には分からないというのが一般的な認識です。そのため「痛くない鍼」は誇大広告のように思われるかもしれませんが、必ずしも間違っているとは言い切れないのです。
鍼治療とは皮膚表面から鍼を刺入するものというのが一般的な認識ですが、鍼には刺入しないものもあります。そのため、刺入する鍼での治療で施術社側が「無痛」と表現するのは、不適切ではないかと思います。
刺さない鍼とは、皮膚表面をさすったり転がして刺激を与える摩擦鍼(ローラー鍼、いちょう鍼など)、皮膚表面に触れたり、当てたり、圧をかける程度の接触鍼(てい鍼など)があります。
これらの鍼は、患者さんの治療部位に怪我や炎症がないかぎり、痛みを感じることは無いと言い切っても過言ではありません。それでも「痛み」と感じるようであれば、他の特定の疾患の疑いが考えられるため、医師に相談することが懸命です。それほど、痛みとしての自覚は生じにくいのです。
皮膚に触れたりさすったりするだけで治療効果があるのか? と疑問に思う人がいてもおかしくありませんが、幼少時に怪我をしたとき、「痛いの痛いの飛んでいけ」をやってもらったことを覚えているでしょうか?
不思議ですけれど、あの時のように痛みが和らぐことがあるのです。
緩解するポイントのひとつには施術を信じ、自分自身も治そうという気持ちがあります。
少しスピリチュアルに聞こえてしまいますが、現代医療においても痛みと心理社会的要因の関係性が確認されている部分もあります。
それほど人間の認知、行動、感情、環境といった媒介要因やパーソナリティなどが痛みの感覚と密接に関わっているのです。
特に接触するだけの鍼治療は「気の調整」を目的にする術式もあります。気には営気と衛気というものがあり、患者さんの症状によって、接触鍼の当て方や圧力を変化させることで気を調整するのです。
さらに、これらの鍼を解剖学や生理学的な考えをもって施術に使う場合もあります。これは「痛いの痛いの飛んでいけ」ではありません。反射作用など現代医学的な観点を考慮にいれた治療方針になります。
鍼灸治療にはさまざまな道具や手技があります。鍼が怖いという方も、施術者へ要望を伝えたり相談することで、患者さんに合う治療方法を選択してくれるものです。
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