振り向き動作で”あの痛み”

 鍼灸治療、マッサージ治療を受ける患者さんで、背中から腰にかけて慢性的な鈍痛や重だるさの症状を訴える人に多いのが、「上体の前後屈は何でもないけれど、ひねったり曲げたりすると背中や腰から脇腹にかけて痛みが生じる」という自覚症状です。

 

 身体の動きは、筋肉の作用が複雑に絡みあって行われます。さらに、部位によっては表層と深層で複数の層が重なり合うだけでなく、主動作が似て非位なることがあるほど緻密な構造になっています。

 

 たとえば、立っている状態で上体だけ後ろを振り返る動きでは脊柱起立筋、腹横筋、外腹斜筋、内腹斜筋、胸鎖乳突筋、僧帽筋、広背筋、多裂筋などが一斉に作用します。さらに、振り向き動作の際に脚を踏み変えないとしても大殿筋、大腿二頭筋、大腿筋膜張筋、腸脛靭帯も働いています。

 

 作用する度合いを考慮しなければ、これら以外にも作用する筋肉はあります。

 

 また、鍼灸治療、マッサージ治療において、各々の筋肉が作用する方向性の鑑別を誤っては何にもなりません。

 

 例えば、”右側振り返り”の動作における上述の主動筋でみた場合、同側(右側)にはたらく筋肉はどれかというと、頭最長筋、広背筋、脊柱起立筋、腹横筋、内腹斜筋になります。それ以外の胸鎖乳突筋、僧帽筋、多裂筋、大腿二頭筋、大殿筋、外腹斜筋は反対側の左側が働いているのです。

 

 すなわち、右側へ振り向いた際に同側の背中が痛むとなれば、右側の脊柱起立筋または広背筋、左側の多裂筋を治療部位として推察します。横っ腹寄りに痛みを生じるようであれば、同側では腹横筋か内腹斜筋、対側ならば外腹斜筋を疑うといった感じです。

 

 とはいえ、筋肉の痛みには”伸長(牽引)痛” ”短縮(収縮)痛”などと呼ばれるものがあります。

 

 例えば、右側振り返りで左側の肩甲骨下あたりが痛むとなれば、部位として考えると広背筋に疑いの目が向けられます。ただし、右側振り返りにおける左側の広背筋の動きは収縮ではなく伸長(伸ばされる)になります。

 

 すなわち、右側振り向き時に左側広背筋が伸ばされることで痛みを生じていると捉えるのです。左側広背筋を治療対象にするか、左側広背筋に余分な伸長動作を生じさせていると推察する他の原因部位を探るかは、施術者次第ということになります。

 

 レントゲンなどの画像検査ができない鍼灸師やマッサージ師が、「できれば治療はじめのうちは、あまり期間を開けずに施術を受けて下さい」とお客様へお伝えするのは、施術部位の探索や施術効果を確認したいというのもひとつの理由にあるのです。

 

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